はつこい文庫

ゆるいブログです

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もしも僕じゃなかったら

もしも君じゃなかったら

こんな気持ちさえ知らずにいたね

(僕らの戦場/  ワルキューレ)

 

 

 

 


高校生の途中から図書室に通い詰めになっていたのは、居場所だった保健室に嫌いな女の子が居座るようになったからだった。誰でも来れるというのは裏を返せば誰の居場所でもないわけで、その子が嫌だったわたしもその子の愚痴を日頃わたしから聞かされていた先生もその子を拒む権利などなく次第に足は遠ざかっていった。早朝の図書室はしんとしていて冷たく、大きめの窓ガラスに結露がたまっている。窓から眺めた中庭には人っ子ひとりいなかった。わたしは文庫本や小さい頃にすきだった絵本なんかを朝から読んで、始業チャイムぎりぎりに教室に向かっていた。特別なにかをされていたわけでもなく、嫌いなあの子とはクラスは別でも、なんとなく張り詰めた空気感がきらいだった。わたしのすきな絵本の近くに8時過ぎにいつも座り、ノートを広げている男の子を少しだけすきになった。体育の時間に一緒に一回だけバドミントンをした。互いに名前を知らないまま卒業し、それ以来会ってはいない。

 

 

 

泡立て器を洗いながら、吹奏楽部の演奏を聞いていた。なんとなく羨ましくて、なんとなく疎ましい女の子のあだ名が天使ちゃんだと知って、自分は天使になれないことを悟った。二人で買い出しに行ったときにあまりにも普通を装うのが辛くて次の日に熱を出した。わたしにないものが欲しかった。わたしは天使になりたかったんじゃない。悪魔でもなんでも、その子の属するものになりたかったんだ。片付けの最中に通りかかった無人の廊下は無機質でひとり取り残されたみたいだ。あと30分で、18時のチャイムが鳴る。

 

 

 

服を隠されたり居場所を取られたりしても泣いたりしたことはないけれど、心のなかで蔑んで、かわいそうな子だと思うばかりだった。自分にないものが欲しい根っこはみな同じなのに。水泳の授業は見学ばかりだったけど、最後の授業の日にはカルピスのボトルを持って授業に出た。プールサイドにはカルピスが似合うと昔から思っていた。特別すきでもないカルピスをプールサイドで飲んだ。少しぬるくて、汗をかいて水滴がパッケージについている。すぐに記録を取りに日陰に戻らなくてはならなかった。みんなが水着なのに見学のわたしだけが夏服のままだった。

 

 

 

 


現像してない写ルンです。プリントアウトしていないデジカメの写真。あの頃に置いてきぼりにされてきたものたち。

 

 

 

「ALL MV COLLECTION〜あの時の彼女たち〜」は怖くてまだ買うことができませんでした。

あの時に戻ってしまったら、わたしは一生こちら側には帰ってこれないような気がするから。

 

 

 

それでは、またお会いしましょう。