はつこい文庫

ゆるいブログです

天使になれない

人生でなれなかったものが2つ。ひとつ目はアイドル。ふたつ目は清らかな天使みたいな人。

 

 

 

世の中にはごく稀に、汚れなんか知らないんじゃないかって思わせてくれる人がいる。わたしは高校の同級生にひとりだけいた。かわいくて、纏う空気が清らかで、誰にでもやさしくて、おまけに頭も良くて、欠点すらいい方向に持っていっちゃうような人。男の子と恥じらうように歩いている姿すら絵になるような、聖人君子みたいな人。わたしはその子と接するたびに、数値にならない数値を削られた。わたしにはなれないものをまざまざと見せつけられるのが辛かった。その子とふたりでやむを得ず学校の行事で出かけたことがあったけど、次の日熱を出した。わたしはその日少しでも聖人君子になろうとありとあらゆるものを押さえつけ、見せかけの天使のお面をぶら下げて街を歩いた。

 

 

 

そういう人にも辛いことがあり、それを押さえつけながら生きているというのは頭では分かってはいるのだけど、日常生活内での取りこぼしがあまりにもなく、気を病んでいた高校時代のわたしにはそれが痛いほど突き刺さった。清らかになれなかった。わたしは痛いほど人間で、嫌なことがあったら親しい子に聞いてもらいたかったし、嫌いな人がいたらその子を知らない子にどれだけ嫌いかを連発したりする。勉強しない日だってあるし、夜更かしもお菓子を食べ過ぎてしまう日だってある。あの子の真似をしたところでなれないことすら分かり切っていたから真似などしなかったけれど、あまりにもなりたい自分に近しかったから、わたしのこと友達みたいに呼ばないで欲しかった。かわいくなれなかったし、そんなことを思ってしまう自分が嫌いだった。

 

 

 

高校を卒業したきりその子には会ってなく、すごく親しかったわけではないからもう会うこともないだろうけれど、時々昔の自分が突き刺すような目線でこちらを見てくるときがある。なりたかった、天使に。天使になりたかった。誰のことも悪く言わない人になりたかったし、清楚を身に纏いたかった。でも、それはきっとほんとのわたしじゃないなあというのも心のどこかでわかっているのだった。

 

 

 

わたしは人間だから、嫌なことがあれば泣くし、ふて寝するし、すきなものばっかり食べたりするし、人のことすぐ嫌いになったりする。あの子も、見えないとこではそうだったのかな。今でも、たまにちょっとだけ天使のふりをして、人間にもどったり半分だけお面をぶら下げたまま生活したりする。生きづらいのは案外どちらも同じかもしれない。

 

 

ちなみに、最近読んだ本は梨木香歩さんの「エンジェル エンジェル エンジェル」です。

それも相まって、この子のことを思い出したんだろうな。

https://www.shinchosha.co.jp/book/125335/